創意工夫点

 南北を山林に挟まれた谷に位置している住宅である。要望に対し,三枚の屋根と断面的に大きな一つの空間で構成される建築を提案した。各屋根の下には主要な居室を設け,視線や風・光等を考慮しそれぞれ異なる屋根勾配とした。各居室には異なる開放感が与えられ,一つの空間が薄暗く静寂な空間から光や風を感じる開放的な空間へと立体的に変化する。一つの空間に多様な関係性と距離間を立体的に与えることができる1R空間とした。

選評

 北側道路に山裾が迫り三方は隣家に囲まれた敷地に,三枚の屋根を組合わせた砦のような構えを持つ住宅。天井の高い落ち着いたリビング,2階は外部に視野の広がるプライベート領域,閉じた空間から開放的な空間へ連続した,味わい深い内部世界を内包している。桁行き8mに及ぶ高窓,屋根を薄く見せるための渡り顎工法,立体解析を用いた構造計画,断熱性,省エネルギーを確保する温熱計画と確かな技術に支えられた工夫が随所に凝らされている。郊外地に建つが,密集市街地にも示唆に富む秀作である。