創意工夫点

 妻と子供2人と暮らすために大工である夫が建てた住まい。日本の気候風土に調和した伝統的な住まいを発想の原点として,自然との共生をテーマに,豊かで心地よい暮らしの実現に取り組んだ。木材は全て国産の杉を使用し,壁は土壁の中塗り仕上げ。光と風を取り込むシンプルな架構とし,素の「木と土の器」を目指した。永く使い込むことで愛着がわき,家族の暮らしに馴染む住まいである。

選評

 広島の気候風土に,そして都市郊外の田畑と住宅が混在する宅地に馴染むように,丁寧につくられた家である。伝統的な技術の継承と発展を見据え,手刻みによる木構造や土壁などの伝統工法に最大限こだわりつつ,現代生活で求められる耐震性や快適性に応えうる工夫が随所に見られ,上質な手触り感に溢れている。加えて,家族の関係や内と外とを緩やかにつなぐことを意図した平面計画により,面積以上の豊かな空間が実現できている。

 衰退の一途をたどっている伝統的な工法を用い,大量生産,大量消費社会から,持続可能な社会への変換を迫られる現代,多くの学ぶべき点を,その伝統工法において実現した作品である。木は,再生可能な資源であることに着目し,伝統的な木組み,耐震性,将来の改修,修繕に備えて優れた機能を有していることに注目している。特筆すべきは,分業化された現代の住宅生産体制の中で,人と人のつながりを取り戻すことを,この建築を通じて体験し,日本の文化の伝承と共に身近にある素材で伝えようとしていて,バランスのとれた活用と実践が図られているところである。