創意工夫点

 福山市北部の敷地に建つ、住居と設計事務所を併せ持った住宅である。建物をL字型に配置して、前面道路に対してプライバシーを確保するため、建物と回転対称状のL字型に塀を設けて庭を囲い込み、住居と事務所の双方から全開口で庭とつながる配置とした。庭は、暮らしの場と仕事の場をほどよい距離感でつなぐ空間的余白や、住まいに自然の潤いをもたらす感覚的要素としてのみではなく、その場を使って活動することを企図している。室内と庭の意識的距離、量的ボリュームを近づけ、相互が均等に作用する、ひとまとまりの領域をつくろうとした。

選評

 住宅と事務所は独立しながら庭で緩やかに接し、限られた敷地の中で職と住がうまく両立している。屋根形状や軒高、庭を囲い込んだ塀の位置やその高さ、駐車場も含めた外構の設えなどが緻密に考えられており、田畑に囲まれた周辺環境と見事に調和している。また、自然光の取り入れ方や、家族間の視線の交わり方などに細かな創意工夫がある。地元の信頼できる作り手たちとの共同作業が随所に見られ、地域に根差した家づくりの好例と言える。

 農住混在の近郊住宅地に建つ事務所併用住宅である。1階にオフィスとリビング、2階に寝室と子供室を配置し、外壁、間仕切、建具、土間、縁側等を駆使し領域をつくり、ディテールに至るまで細やかな創意工夫と技術力が発揮されている。L字形家屋に囲まれた中庭は、道路と住宅、オフィスとリビングの 相互に「見る」「見られる」関係を考慮し、RCの塀、壁と開口を操作して、見事な屋外空間を創っている。RCの塀は建築の一部であり、他の境界は枕木、縁石で区画され、近隣に開放されている。「職住一体型住宅」の参考にもなる、優れた建築である。